AIエージェントが自律的に資金を管理し、取引を実行し、他のエージェントにサービスを提供する経済が現実になりつつある。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOはGTC 2026で「Agentic AI経済は1兆ドル規模になる」と発言した。そのインフラを担うとして2026年3月21日に存在感を高めているのが、AIエージェント専用ブロックチェーン「0G(ゼロ・グラビティ)」だ。
「AIとブロックチェーンの組み合わせ」はこれまで何度も語られてきたが、0Gのアプローチは従来と異なる。汎用ブロックチェーンにAIを乗せるのではなく、AIエージェントが必要とする機能——検証済みコンピュート、永続的メモリ、高速決済——を設計の出発点に置いている。
何が発表されたのか
2026年3月21日付けのGlobeNewswireプレスリリースで、0Gは自社をAIエージェント向けのブロックチェーンとして公式に位置づけた。この発表に合わせていくつかの具体的なマイルストーンが開示されている。
- Aristoteメインネット: 2025年9月に稼働済み、2026年3月にGeth→Reth(Rust実装)へのバリデーターアップグレードを完了
- エコシステム: Chainlink・Google Cloud・Alibaba Cloudを含む100社以上のパートナー
- NVIDIAとの関係: NVIDIA Inceptionプログラムメンバー
- 資金調達: Hack VC、Delphi Digital、OKX Ventures、Samsung Next、Animoca Brandsから合計2億9,000万ドル
- Apollo AIアクセラレーター: Stanfordブロックチェーン研究者とともに2,000万ドル規模で始動
技術的に見ると:4レイヤーのインフラ構造
0Gが提供するのは、AIエージェントの自律的な動作を支える4つのレイヤーだ。
1. 検証済みコンピュート(Sealed Inference)
AIの推論処理をTEE(Trusted Execution Environment、ハードウェアエンクレーブ)内で実行し、暗号的に検証する仕組みだ。エージェントが「このモデルが実際にこの入力で実行された」ことを証明できる。入力・出力を外部に公開せずに、実行の正確性だけを検証できる点が重要だ。エージェント間の信頼確立に使える。
2. 永続メモリ(0G Storage)
分散ネットワーク上で最大2GB/sのスループットを提供する。AIエージェントが会話文脈・学習データ・状態を複数のセッションをまたいで保持するための基盤になる。通常のブロックチェーンのストレージは小容量・高コストで、AIのデータ量には対応しにくい。
3. オンチェーン決済(0G Chain)
EVM互換のLayer 1。AIエージェントがウォレットを持ち、DeFiプロトコルと対話し、他のエージェントへの支払いを中央集権的な仲介者なしに実行できる。
4. データ可用性レイヤー(0G DA)
「EthereumのDAレイヤーと比べて5万倍高速・100倍安価」と主張している(参照日: 2026-03-22、出典: GlobeNewswire発表)。AIスケールのデータポスティングを低コストで処理するために設計されている。ただしこの数値は0G自身の測定であり、独立した第三者検証は現時点では確認できていない。
業界の動きと照らし合わせると
0Gのポジショニングが注目される背景には、2026年Q1のいくつかの動きがある。
Binanceは1,600件以上のAIエージェントをAgent Skills Hubでインデックスし始めた。Solanaでは55体のAIエージェントが実際に稼働し、1日あたり5万2,000ドルの収益を生み出しているという報告がある(参照: GlobeNewswire、2026-03-21)。OpenAIはGPT-5.4 mini/nanoをマルチエージェントシステム向けに設計したモデルとして投入した。
こうした流れの中で「AIエージェントが経済主体になるとき、どのインフラを使うのか」という問いが具体性を帯びてきた。0GはそのポジションをEthereumやSolanaの汎用チェーンではなく、AIエージェント専用のL1として取りに行っている。
正直、まだ不明瞭な部分もある
この発表には誇大な数字が含まれている可能性があり、そのままで受け取るには留保が必要だ。「5万倍高速」という主張は、どのような条件下での比較かが明示されていない。独立したベンチマークを待ちたい。
また、AIエージェントが実際にオンチェーンで自律的に取引するユースケースは、まだ実験段階のものが多い。Solanaの「55エージェントで5万2,000ドル/日」という数値も、どのエージェントがどのタスクで収益を上げているかの詳細は限られている。
筆者が判断がつかないのは、「AIエージェント向けブロックチェーン」という市場自体がどのくらいのペースで立ち上がるかだ。1兆ドル経済の話はNVIDIAのビジョンとして語られているが、それが0Gのような専用インフラを必要とするのか、既存チェーンのレイヤー2で十分なのかは、まだオープンな問いだ。
開発者が知っておくべきこと
0G ChainのEVM互換性を確認し、テスト環境でスマートコントラクトをデプロイする基本的な例を示す。
// 動作環境: Node.js 20+, ethers.js v6
// npm install ethers
const { ethers } = require('ethers');
// 注意: 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。
// 秘密鍵は環境変数で管理すること
async function deployToZeroG() {
// 0G Chainのテストネット/メインネットRPC(公式ドキュメントで最新URLを確認)
const provider = new ethers.JsonRpcProvider(process.env.ZERO_G_RPC_URL);
const wallet = new ethers.Wallet(process.env.PRIVATE_KEY, provider);
// シンプルなAIエージェント支払い記録コントラクト
const contractABI = [
"function recordPayment(address agent, uint256 amount) public",
"function getBalance(address agent) public view returns (uint256)"
];
const contractBytecode = "0x..."; // コンパイル済みバイトコード
const factory = new ethers.ContractFactory(contractABI, contractBytecode, wallet);
const contract = await factory.deploy();
await contract.waitForDeployment();
console.log('Contract deployed at:', await contract.getAddress());
return contract;
}
deployToZeroG().catch(console.error);
動作環境: Node.js 20+, ethers.js v6
注意: 0G ChainのRPC URLは0G公式ドキュメントで最新を確認すること。テストネットで動作検証してからメインネットに展開すること。
AIエージェントにブロックチェーンを組み合わせることを検討している開発者向けに、現時点での整理をする。
- TEE検証の活用: エージェントの実行結果の信頼性証明が必要なユースケース(金融取引の自動化、コンプライアンス証明など)では、Sealed Inferenceの仕組みは実用的な選択肢になり得る
- EVM互換: Solidity開発者はスマートコントラクトをほぼそのまま移植できる
- エコシステムの成熟度: 2026年3月時点ではメインネット稼働から半年。ツール・ドキュメント・事例はまだ限られている
- 競合比較: Fetch.ai・SingularityNET・Elastosなども「AI×ブロックチェーン」の文脈で動いている。0Gが差別化できるかはDAレイヤーのコスト構造次第になる
AIエージェントのオンチェーン活動に興味があれば、0G公式サイトとAristoteメインネットのドキュメントを確認し、テストネット環境で試すことから始めるのが現実的だ。
この先どうなるか
0GとAIverseが共同で発表した「Web 4.0マーケットプレイス」(2026年3月4日)は、AIエージェントがオンチェーンで資産を保有・売買・進化させる場所をつくるプロジェクトだ。これが仮に機能すれば、「AIエージェントがサービスを売り、収益を得て、そのリソースで能力を拡張する」という循環が実現する。
現実的には、規制面・技術面での課題が多く残る。しかしこの方向性への投資が2億9,000万ドル集まっているのは事実で、インフラ競争が始まっていることは確かだ。
AIエージェント構築において、マルチエージェントシステムの設計や権限管理についてはAIエージェント構築完全ガイドで体系的にまとめているので、合わせて参照してほしい。
参考・出典
- 0G Positions as the Blockchain for AI Agents — GlobeNewswire(参照日: 2026-03-22)
- 0G And AIverse: Web 4.0 Marketplace — GlobeNewswire(参照日: 2026-03-22)
- 0G公式サイト — 0G(参照日: 2026-03-22)
- Agentic Finance: Trillion-Dollar Machine Economy Explained — Phemex Academy(参照日: 2026-03-22)
- 0G:AIエージェント向けブロックチェーンとしての位置づけ — National Today(参照日: 2026-03-22)
この記事はAIgent Lab編集部がお届けしました。
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