Microsoftがついに動いた。2026年2月19日、同社はAIエージェント開発フレームワーク「Microsoft Agent Framework」のRelease Candidate(RC)を公式に発表した。.NETとPythonの両方で利用可能だ。
これが何を意味するかというと、これまで別々に開発されてきたAutoGen(マルチエージェント研究向け)とSemantic Kernel(エンタープライズ向けSDK)が、ひとつの統合フレームワークに生まれ変わったということだ。Q1 2026中のGA(一般提供)が予定されており、早ければ3月末にも正式リリースされる見込みがある。
なぜ統合が必要だったのか
正直、これまでのMicrosoft陣営のエージェント開発は混乱していた。
AutoGenはMicrosoft Researchが開発したマルチエージェントフレームワークで、研究色が強かった。一方のSemantic Kernelは、エンタープライズ向けのプロダクション品質を売りにしていたが、マルチエージェントのオーケストレーション機能は後付けだった。開発者は「どちらを使えばいいのか」と迷い続けていた。
InfoQの報道によれば、この統合はまさにその混乱を解消するためのものだ。AutoGenのマルチエージェントオーケストレーションパターンと、Semantic Kernelのエンタープライズ基盤(セッション管理、型安全、テレメトリ、フィルタリング)を1つのSDKに統合している。
技術的に何が変わるのか
公式ブログとドキュメントから読み取れる主要な変更点を整理した。
| 機能 | 旧Semantic Kernel | 旧AutoGen | 新Agent Framework |
|---|---|---|---|
| マルチエージェント | 実験的サポート | コア機能 | グラフベースワークフロー |
| 言語サポート | .NET優先 | Python優先 | .NET + Python同時 |
| モデルプロバイダ | Azure OpenAI中心 | OpenAI中心 | Azure OpenAI, OpenAI, Anthropic, AWS Bedrock, Ollama等 |
| プロトコル対応 | 限定的 | 限定的 | A2A, MCP, AG-UI |
| チェックポイント | なし | 実験的 | ネイティブサポート |
| Human-in-the-Loop | プラグインで対応 | 部分的 | ワークフローに組み込み |
特に注目すべきはグラフベースワークフローだ。Sequential(順次)、Concurrent(並行)、Handoff(引き継ぎ)、Group Chat(グループ会話)の4パターンが最初から組み込まれている。それぞれストリーミングとチェックポイントに対応しており、長時間実行タスクの途中復帰も可能だ。
数行でエージェントが動く
公式ブログに掲載されたPythonのサンプルコードを見ると、その簡潔さがわかる。
# 動作環境: Python 3.10+
# インストール: pip install agent-framework --pre
import asyncio
from agent_framework.azure import AzureOpenAIResponsesClient
from azure.identity import AzureCliCredential
async def main():
agent = AzureOpenAIResponsesClient(
credential=AzureCliCredential(),
).as_agent(
name="HaikuBot",
instructions="You are an upbeat assistant that writes beautifully.",
)
print(await agent.run("Write a haiku about AI agents."))
if __name__ == "__main__":
asyncio.run(main())
# 注意: 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。
マルチエージェントのオーケストレーションも、SequentialBuilderを使えばシンプルに記述できる。
# 動作環境: Python 3.10+
# インストール: pip install agent-framework-orchestrations --pre
from agent_framework.azure import AzureOpenAIChatClient
from agent_framework.orchestrations import SequentialBuilder
from azure.identity import AzureCliCredential
async def main():
client = AzureOpenAIChatClient(credential=AzureCliCredential())
writer = client.as_agent(
instructions="You are a concise copywriter.",
name="writer",
)
reviewer = client.as_agent(
instructions="Give brief feedback on the previous message.",
name="reviewer",
)
# writer → reviewer の順次ワークフロー
workflow = SequentialBuilder(
participants=[writer, reviewer]
).build()
async for event in workflow.run(
"Write a tagline for an AI agent platform.", stream=True
):
if event.type == "output":
for msg in event.data:
print(f"[{msg.author_name}]: {msg.text}")
# 注意: 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。
A2AとMCPへのネイティブ対応
もうひとつ見逃せないのが、A2A(Agent-to-Agent)プロトコルとMCP(Model Context Protocol)への標準対応だ。
A2Aは、異なるフレームワークで作られたエージェント同士がタスクを委譲し合うためのオープンプロトコル。MCPは、エージェントが外部ツールやデータソースに統一的にアクセスするための標準規格で、JSON-RPC 2.0ベースで動作する。
この2つに最初から対応しているということは、Microsoft Agent Frameworkで作ったエージェントが、LangGraphやCrewAIで作ったエージェントと連携できる可能性があるということだ。ベンダーロックインからの脱却という点で、これは大きい。
既存プロジェクトの移行はどうなる
Semantic KernelやAutoGenを使って既にプロジェクトを動かしている開発者にとって、最大の関心事は移行だろう。
Microsoftは移行ガイドを公開済みだ。
ただし、筆者として正直に言えば、移行を急ぐ必要はまだないと考えている。RCステータスは「APIが安定した」ことを意味するが、NuGetとPyPIではまだpre-releaseフラグが付いている。GAまでにマイナーな破壊的変更が入る可能性はゼロではない。
現時点でのおすすめは以下の通りだ。
- 新規プロジェクト:Agent Frameworkで始めてよい。APIは安定しているし、今後のエコシステムはここに集約される
- 既存のSemantic Kernelプロジェクト:GA後に移行計画を立てれば十分。Semantic Kernel自体はv1.0+でまだ安定稼働する
- 既存のAutoGenプロジェクト:研究用途なら急がなくてよいが、プロダクション移行を検討中なら早めにAgent Frameworkを評価すべき
競合フレームワークとの位置づけ
2026年3月現在、AIエージェントフレームワークの競争は激化している。主要プレイヤーの立ち位置を整理しておく。
| フレームワーク | 最新バージョン | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|
| Microsoft Agent Framework | 1.0.0rc1 | .NET + Python統合、エンタープライズ基盤 | まだRC、エコシステムが移行途中 |
| LangGraph | v1.1.0 | 複雑なステートフルオーケストレーション | 学習曲線が急 |
| CrewAI | v1.10.1 | 高速プロトタイピング、MCP/A2A対応 | 大規模運用の実績がまだ少ない |
| OpenAI Agents SDK | v0.11.1 | シンプル、100以上の非OpenAIモデル対応 | OpenAIエコシステムへの依存 |
| Google ADK | Preview | マルチモーダル、Googleインフラ統合 | Geminiエコシステム前提 |
Microsoft Agent Frameworkの最大の差別化ポイントは、.NETのファーストクラスサポートだ。エンタープライズ環境で.NETを使っている企業にとって、PythonオンリーのLangGraphやCrewAIは導入障壁が高い。ここにMicrosoftの勝ち筋がある。
開発者が今週やるべきこと
GA前のこの時期にできることは、意外と多い。
- RCを手元で動かしてみる。
pip install agent-framework --preで10分もあれば最初のエージェントが動く。公式のGetting Startedガイドが充実している - 自社のエージェント要件を棚卸しする。マルチエージェントが必要か?.NETか?Human-in-the-Loopは?要件によって最適なフレームワークは変わる
- 移行コストを見積もる。既存のSemantic Kernel / AutoGenプロジェクトがある場合は、移行ガイドに目を通しておくだけでも損はない
この先どうなるか
MicrosoftがAutoGenとSemantic Kernelを統合したことは、エージェント開発が「研究フェーズ」から「プロダクションフェーズ」に移行していることの証左だ。
Gartnerは、2026年末までにエンタープライズアプリケーションの40%がタスク特化型AIエージェントを組み込むと予測している(Google Cloud AI Agent Trends 2026参照、2年前の5%未満からの急増)。Microsoft Agent FrameworkのGAは、その波を加速させる触媒になるだろう。
ただし、フレームワークが統合されたからといって、すぐに「Microsoft一択」になるわけではない。LangGraphの高度なステートフル管理、CrewAIのプロトタイピング速度、OpenAI Agents SDKのシンプルさ——それぞれに明確な強みがある。開発者は自分のユースケースに最適な選択をすべきだ。
GA正式発表があり次第、Agent Labでは実際のベンチマーク比較と移行実践レポートをお届けする予定だ。
AIエージェントの基本概念や構築パターンについては、AIエージェント構築完全ガイドで体系的にまとめています。フレームワーク選定で迷っている方は、CrewAI vs LangGraph vs OpenAI Agents SDK徹底比較もあわせてご覧ください。
参考・出典
- Microsoft Agent Framework Reaches Release Candidate — Microsoft DevBlogs(参照日: 2026-03-11)
- Microsoft Agent Framework RC Simplifies Agentic Development in .NET and Python — InfoQ(参照日: 2026-03-11)
- Microsoft Agent Framework Overview — Microsoft Learn(参照日: 2026-03-11)
- microsoft/agent-framework — GitHub(参照日: 2026-03-11)
- AI Agent Trends 2026 — Google Cloud(参照日: 2026-03-11)
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この記事はAIgent Lab編集部がお届けしました。