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GPT-5.6 Ultra mode解剖:Claude Agent SDKと比較

GPT-5.6 Ultra mode解剖:Claude Agent SDKと比較

この記事の結論

GPT-5.6のUltra modeはモデル内蔵の並列サブエージェントでTerminal-Bench 2.1を88.8%→91.9%に押し上げた。Claude Agent SDKとの設計思想の違いを開発者視点で解説する。

2026年7月9日、OpenAIは「GPT-5.6」をChatGPT・Codex・OpenAI APIの全チャネルで一般提供(GA)に切り替えた。目玉は3階層のモデル群(Sol / Terra / Luna)そのものより、Solに搭載された「Ultra mode」だ。1つの難問を複数のサブエージェントに分解し、並列に走らせてから統合する——モデル内蔵のマルチエージェント機構である。

同じ7月9日にはこのAIgent LabでもClaude Agent SDKのサブエージェント実装ガイドを公開したばかりだ。「サブエージェント」という言葉は同じでも、GPT-5.6 Ultra modeとClaude Agent SDKは設計思想がまったく違う。本記事では開発者視点でUltra modeのアーキテクチャを解剖し、コスト構造・API上の扱い・Claude Agent SDKとの違いを整理する。

何が発表されたのか — Ultra modeの正体

OpenAIの発表によれば、Ultra modeは「単一のエージェントの枠を超えて、サブエージェントを使い複雑な作業を加速する」機構だと説明されている。処理の流れは次の3段階だ。

ステップ 内容
1. 分解 Solがユーザーの問いを複数のサブタスクに分割する
2. 並列実行・協調 各サブエージェントが担当領域を処理。互いに独立して走るのではなく、タスクの途中で情報をやり取りしながら協調するよう訓練されている
3. 統合 各サブエージェントの出力を1つの回答にまとめて返す

具体的なイメージとして紹介されている例が分かりやすい。「1つの難しい質問」を4つのサブエージェントに分割し、それぞれが「根拠となる情報源の収集」「数式・計算の検証」「コードの作成」「エラーの検出」を担当、最後に1つの回答に縫い合わせる、というものだ。開発者が個々のサブエージェントを定義するのではなく、Solがタスク内容を見て自律的に役割分担を決める点がポイントになる。

ベンチマークで見る効果 — Terminal-Bench 2.1

OpenAIおよび複数メディアの報道によれば、この並列化がTerminal-Bench 2.1のスコアを押し上げている。

モデル・モード Terminal-Bench 2.1
GPT-5.6 Sol(標準モード) 88.8%
GPT-5.6 Sol(Ultra mode) 91.9%
Claude Mythos 5 88.0%
Gemini 3.1 Pro Preview 70.7%

注目すべきは、Ultra modeによる+3.1ポイントの上昇が「パラメータ追加でも、ベースモデルのアーキテクチャ変更でもなく、オーケストレーションだけによるもの」と説明されている点だ。同じ重みのモデルでも、タスクの割り振り方を変えるだけでスコアが変わる——これはAIエージェントを設計する開発者にとって、モデル選定だけでなく「並列化の設計」自体が性能レバーになることを示している。

開発者はどう使うのか — API・Codexでの扱い

ここで実務上重要なのが「Ultra」という呼称の扱いだ。ChatGPT WorkやCodexの製品UI上では「Ultra」という名前のモードとして提供されるが、開発者向けの公式APIリファレンス(developers.openai.com のReasoning modelsガイド、2026年7月10日時点で確認)には、”Ultra”という名前そのものは登場しない。かわりに、Responses APIのreasoningオブジェクトにeffort(none / minimal / low / medium / high / xhigh、新設のmax)と、mode(standard / pro の2値)というパラメータが定義されている。

# 動作環境: OpenAI Responses API(developers.openai.com Reasoning models guideに準拠)
# 注意: "ultra"というキーワード自体はAPIパラメータとしては公式ドキュメントに見当たらない。
# 実際に確認できるのは reasoning.effort と reasoning.mode の2パラメータ。
curl https://api.openai.com/v1/responses 
  -H "Authorization: Bearer $OPENAI_API_KEY" 
  -H "Content-Type: application/json" 
  -d '{
    "model": "gpt-5.6",
    "input": "この30ファイルのモジュールをレビューして、脆弱性を洗い出して",
    "reasoning": {
      "effort": "high",
      "mode": "pro"
    }
  }'

公式ガイドはmode: "pro"を「レイテンシとトークン消費の増加を許容できる、より難しいタスク向け」と説明しており、標準のトークン単価のまま処理量が増える、という書き方になっている。一方、複数の二次情報(digitalapplied.comの報道など)は、ChatGPT Work(Pro/Enterprise以上)・Codex(Plus以上)・APIでは「Responses APIのマルチエージェント・ベータ」という製品名でUltraに相当する機能が提供されている、と伝えている。つまり「Ultra」は製品ブランド名であり、API仕様書上の正式なパラメータ名とは一致していない可能性がある——この呼称のズレは、社内でAPI設計をする際に混乱しやすいポイントなので覚えておきたい。

コスト特性 — 「並列」はタダではない

Sol / Terra / Lunaの3階層は、プレビュー時点から据え置きの料金体系でGAした。

モデル 入力(100万トークンあたり) 出力(100万トークンあたり)
Sol $5 $30
Terra $2.50 $15
Luna $1 $6

この単価はあくまで「1エージェント分」の話だ。Ultra modeでは各サブエージェントが独立してトークンを消費するため、複数の報道が指摘する通り、1回のUltra呼び出しが標準モードの数倍のトークンを消費しうる。前述の4分割の例で言えば、単純計算でも標準呼び出しの3〜4倍のトークンが動く可能性がある。「精度が上がるなら使う」ではなく、「このタスクは並列化のコストに見合うか」を都度判断する設計が必要になる。

なお、SolはCerebrasのウェハースケールハードウェア上で最大750トークン/秒の推論速度が出ると報じられている。並列サブエージェントを何本も走らせるUltra modeの実用性は、この推論速度の高さに支えられている面が大きい。ただし「70〜100枚のウェハーに1レイヤーずつ配置し、総パラメータ約3兆・アクティブ1,500億」という具体的な構成は、アナリスト(Bleys Goodson氏)による推定であり、OpenAIが公式に確認した数値ではない点は割り引いて読む必要がある。

Claude Agent SDKとの設計比較

同じ「サブエージェント」でも、Anthropicの公式ドキュメント(docs.claude.com のSubagents in the SDK)が示す設計は対照的だ。Claude Agent SDKでは、開発者がquery()agentsパラメータに、名前・説明・システムプロンプト・使用可能ツール・使用モデルを明示的に定義する。

// 動作環境: @anthropic-ai/claude-agent-sdk(公式Subagentsドキュメント準拠)
const result = query({
  prompt: "認証まわりのモジュールをレビューして",
  options: {
    agents: {
      'security-reviewer': {
        description: '認証・認可まわりの脆弱性レビュー専門',
        prompt: 'あなたはセキュリティレビュー専門のAIエージェントです。',
        tools: ['Read', 'Grep', 'Glob'],
        model: 'sonnet'
      }
    }
  }
});

公式ドキュメントは、各サブエージェントが「新規の会話として独立して走り、中間のツール呼び出しやログは外に漏れず、最終メッセージだけが親エージェントに返る」設計だと説明している。Claudeはタスク内容とサブエージェントのdescriptionを照合して自動的に呼び出すか、プロンプトで名指しすれば確実に呼び出せる。用途はコンテキスト管理(巨大なログを親の会話に持ち込まない)と並列化の両方だ。

比較軸 GPT-5.6 Ultra mode Claude Agent SDK
サブエージェントの定義 開発者は定義しない。モデルがタスクを見て自律的に分解 開発者が名前・prompt・tools・modelを明示的に登録(または組み込みgeneral-purpose)
起動のトリガー reasoning.mode: "pro"や製品UIの「Ultra」トグルで有効化 タスクとdescriptionの照合による自動呼び出し、またはプロンプトでの名指し
サブエージェント間の関係 協調・通信しながら並列進行し、最後に統合(cooperative) 各サブエージェントは独立した新規会話。中間ログは外に出ず、最終メッセージのみ親に返る(isolated)
主目的 ベンチマーク精度の底上げ(Terminal-Bench +3.1pt) コンテキスト汚染の防止と並列化の両立
コストの見通しやすさ 何個のサブエージェントが動くかは開発者からは見えにくい 事前に何個・どのモデルを使うか設計するため予測しやすい

要するに、GPT-5.6 Ultra modeは「モデルに任せる」設計、Claude Agent SDKは「開発者が設計する」設計だ。前者はゼロコンフィグで精度を底上げしたいときに強く、後者はツール権限・モデル選択・ログの見え方まで自分でコントロールしたい本番運用のワークフローに向いている。開発者主導でサブエージェント構成を組む場合の定石はオーケストレーター・ワーカー型のマルチエージェント設計パターンを参照するとよい。

どちらが向いているか — ワークロード設計の判断基準

  • 単発の難問を最速で解きたい(複雑なコーディングタスク、数式検証を含む調査など) → Ultra modeのような「モデル任せの並列化」が有利。設定コストがほぼゼロ
  • 毎日繰り返す業務フローで、ツールごとに権限を分けたい(コードレビュー専用、リサーチ専用など役割固定の担当を作りたい) → Claude Agent SDKのように開発者が定義するサブエージェント構成の方が事故が少ない
  • コストの見通しを立てたい本番システム → サブエージェント数がブラックボックスになるUltra modeより、事前に構成を設計できるアーキテクチャの方が予算管理がしやすい
  • 推論のたびに毎回精度と価格の綱引きをしたい → Ultra modeは「効くかどうか試す」レイヤーの機能なので、まずreasoning.effortを1段階落とした構成と比較してから採用するのが安全

よくある誤解

❌「Ultra modeを使えばコストは変わらず精度だけ上がる」
⭕ サブエージェントごとに独立してトークンを消費するため、標準モードの数倍のコストになりうる。精度と価格はトレードオフ。

❌「Ultraは開発者が使うAPIパラメータの正式名称」
⭕ 公式APIリファレンスに”Ultra”という名前は登場しない。製品ブランドとしての呼称と、API仕様上のreasoning.modeは別レイヤーで語られている点に注意が必要。

❌「サブエージェント機構を持つモデルなら、開発者側で個別のサブエージェントを設計する必要がなくなる」
⭕ Ultra modeはモデル内蔵の自動分解であり、Claude Agent SDKのようにツール権限やモデルを分けて役割を固定したい場合は、依然として開発者主導の設計(Claude Agent SDK的なアプローチ)が必要になる。

まとめ

GPT-5.6 Ultra modeは、モデル自身がタスクを分解し、協調するサブエージェントを並列生成して統合する「モデル内蔵型マルチエージェント」だ。Terminal-Bench 2.1で88.8%→91.9%という具体的な数字が示す通り、オーケストレーションだけで精度を押し上げられることを実証した点は大きい。一方で、サブエージェントごとに独立してトークンを消費するためコストは数倍に膨らみやすく、API仕様上の呼び方も製品名の「Ultra」とは必ずしも一致しない。開発者としては「モデルに並列化を任せて精度を底上げしたい局面」と「権限・ログ・コストを自分で設計したい本番ワークフロー」を明確に分け、Claude Agent SDKのような開発者主導型のサブエージェント設計と使い分けるのが実務的な結論になる。

参考・出典

この記事を読んで自社のAIエージェント設計を見直したくなった方へ

UravationではAIエージェント導入の研修・コンサルを行っています。


著者: 佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー約10万人。著書『AIエージェント仕事術』。

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※ 本記事の情報は2026年7月時点のものです。サービスの料金・仕様は変更される可能性があります。最新情報は各サービスの公式サイトをご確認ください。

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