米連邦控訴裁判所・第9巡回区は2026年8月4日、Amazonが求めていたPerplexity「Comet」に対する差止命令を取り消した。争点は、ユーザーに代わってログインし、商品を閲覧し、購入を完了させるAIエージェントが、連邦不正アクセス防止法(CFAA)上の「無許可アクセス」に当たるかどうか。第9巡回区の結論は「エージェントがユーザーの指示だけで動く限り、原則としてCFAA違反ではない」というもので、ブラウザ自動化やエージェント型コマースを開発するすべてのチームに実務上の影響がある。
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ただし全面勝訴ではない。商標権侵害と州法上の請求は地裁に差し戻され、審理が続く。AIエージェントの構築全般についてはAIエージェントツール完全比較12選で、権限設計の基本はAIエージェント ガバナンス・権限設計2026で整理している。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年10月 | Amazon、PerplexityへCometの停止を求める警告状を送付 |
| 2025年11月 | Amazon、Perplexityを提訴 |
| 2026年3月10日 | 連邦地裁(北カリフォルニア地区)が予備的差止命令を認める |
| 2026年8月4日 | 第9巡回区控訴裁判所が差止命令を取り消し、地裁へ差し戻し |
2025年10月: Amazonの警告状から始まった
発端は2025年10月、AmazonがPerplexityに送った警告状(cease-and-desist letter)だった。Amazonの主張は、PerplexityのAI搭載ブラウザ「Comet」が、通常のChromeブラウザを装って(disguise)Amazonのサイトにアクセスし、AIエージェントであることを隠したまま商品の閲覧・購入を行っているというものだ。Cometはユーザーが保存したAmazonのログイン情報を使ってアカウントにサインインし、商品を閲覧し、チェックアウトフローを通じて購入まで完了できる。
Amazonはこの「ブラウザ偽装」を問題視し、停止を要求。Perplexityがこれに応じなかったことから、翌月の提訴に至った。
2025年11月: Amazonが提訴
Amazonは連邦不正アクセス防止法(Computer Fraud and Abuse Act、CFAA)およびカリフォルニア州の同種法(California Comprehensive Computer Data Access and Fraud Act)違反などを主張してPerplexityを提訴した。訴状では、AIショッピングエージェントの存在を偽装している点が繰り返し強調されている。
2026年3月10日: 地裁が差止命令を認めた
サンフランシスコ連邦地裁のMaxine M. Chesney判事は2026年3月10日、Amazonの申立てを認め、予備的差止命令(preliminary injunction)を発令した。Chesney判事は、Cometがユーザーの指示でAmazonのサイトにアクセスした行為について「Amazonからの許可なく」行われたとする「強力な証拠」をAmazonが提示したと判断。命令の内容は、Cometがパスワード保護されたAmazonアカウント・システムにアクセスすることを禁止し、さらにCometを通じて収集したAmazonのデータの破棄をPerplexityに求めるものだった。
2026年8月4日: 第9巡回区が逆転
米連邦控訴裁判所・第9巡回区は2026年8月4日、この差止命令を取り消した(vacate)。Milan Smith巡回判事が執筆した21ページの意見書の骨子は次の3点だ。
- 「アクセスしている」のはユーザーであってPerplexityではない:Cometはユーザーが指示した場合にのみ動作するため、Amazonのサーバーに実際に「アクセス」しているのはユーザー自身であり、Perplexityがアクセスしているとは言えないと判断した。
- 法の疑義は被告に有利に解釈する原則(rule of lenity)を適用:CFAAの「無許可アクセス」の定義がAIエージェントの行為に明確に当てはまるかどうかは曖昧であり、その曖昧さは責任を課さない方向に解釈すべきだとした。
- 判例の不在を明言:意見書は「AIエージェントの責任をどう帰属させるかについて、直接扱った判例はほとんど、あるいはまったく存在しない(little to no existing caselaw)」と述べたうえで、「差止命令は消費者の選択を損ない、黎明期の技術の発展を不必要に制限することになる」とした。
電子フロンティア財団(EFF)はこの判決を支持する立場で意見書(amicus brief)を提出しており、判決後に「ウェブブラウザを作ることはCFAA違反にはならないと控訴裁判所が認めた」と評価するブログ記事を公開している。一方で裁判所自身が、この判断は狭い(narrow)ものであり、AIエージェントを巡る法律は「今後間違いなく変化していく(will doubtless change)」と明記している点は見落とせない。
重要なのは、Amazon側の請求すべてが退けられたわけではないという点だ。商標権侵害の主張と、カリフォルニア州法に基づくその他の請求は今回の判断の対象外で、事件は地裁に差し戻され審理が続く。CFAAという特定の連邦法についての判断が覆っただけであり、契約違反(利用規約違反)や商標権侵害を理由とする訴訟のリスクが消えたわけではない。
全体を通して見えること — AIエージェント開発者への実務インパクト
この判決を「AIエージェントによるスクレイピング・自動購入は何でも合法になった」と読むのは誤りだ。開発者・プロダクトチームが押さえておくべき論点は以下の4つに整理できる。
- CFAAの盾は恒久的ではない:今回の判断は第9巡回区(カリフォルニア州を含む西海岸9州を管轄)に限定される。他の巡回区で同種の争いが起きた場合、異なる判断が出る可能性は残る。裁判所自身が「法は変化する」と明言している以上、この判例を将来にわたる法的保証として扱うべきではない。
- ToS違反・商標権侵害のリスクは別枠で残る:Amazonの商標権主張と州法上の請求は今回の判断の対象外のまま地裁で継続する。CFAA以外の請求原因(契約違反、不正競争、商標権侵害)は、依然としてエージェント開発者が直面しうるリスクだ。
- 「エージェントであることを隠す」設計は火種になりやすい:今回の紛争の出発点は、CometがChromeを装ってアクセスしていたとAmazonが主張した点にある。ブラウザ自動化・エージェント型コマースを構築する際は、User-Agentヘッダーやリクエストヘッダーで自動化エージェントであることを誠実に示す設計が、法的リスクとレピュテーションリスクの両方を下げる現実的な対策になる。
- 「ユーザーの指示で動く」という設計が判断の核だった:裁判所が重視したのは、Cometが自律的にAmazonへアクセスするのではなく、あくまでユーザーが都度指示した場合にのみ動作する点だった。エージェントの行為ログ・監査証跡を残し、「誰の指示で・いつ・何を実行したか」を追跡可能にしておくことは、今後同種の紛争が起きた際の説明責任の面でも重要になる。
実務的には、以下のようなUser-Agent設計が最低限のコンプライアンス対策になる。
# 動作環境: Python 3.11+, playwright>=1.45
# 背景: Amazon対Perplexity訴訟では「Cometがブラウザを偽装していた」点が
# Amazon側の主張の中心にあった。エージェントである事実を隠さないUser-Agent
# 設計は、法的リスクとレピュテーションリスクの両方を下げる現実的な対策になる。
from playwright.sync_api import sync_playwright
CUSTOM_UA = (
"MyCompanyAgent/1.0 "
"(+https://example.com/agent-info; autonomous-browsing-agent)"
)
with sync_playwright() as p:
browser = p.chromium.launch(headless=True)
context = browser.new_context(user_agent=CUSTOM_UA)
page = context.new_page()
page.goto("https://example.com")
# 注意: 本番環境で使用する前に、必ず対象サイトの利用規約と
# robots.txtを確認し、法務担当者にもレビューしてもらってください。
browser.close()
このコードはUser-Agentを正直に名乗ることでコンプライアンス姿勢を示す最低限の実装例であり、これ単体でCFAAや利用規約違反のリスクを排除できるわけではない点に注意してほしい。
よくある質問
Perplexity Cometとは何ですか?
Perplexityが提供するAI搭載ブラウザで、ユーザーに代わってログイン、商品閲覧、購入完了までをこなす「エージェント型ブラウザ」。保存されたログイン情報を使ってAmazonなどのアカウントを操作できる点が今回の訴訟の争点になった。
今回の判決でPerplexityは全面勝訴したのですか?
いいえ。CFAA(連邦不正アクセス防止法)に基づく差止命令のみが取り消された。商標権侵害と州法上のその他の請求は今回の判断の対象外で、地裁に差し戻されて審理が続く。
なぜ「ユーザーが無許可アクセスした」ことにならないのですか?
裁判所は、エージェントがユーザーの指示でのみ動作している場合、Amazonのサーバーに実際に「アクセス」しているのはユーザー自身であり、Perplexityが自ら不正アクセスしたとは言えないと判断した。あわせてCFAAの条文の曖昧さを被告に有利に解釈する「rule of lenity」の原則も適用している。
この判決は日本の企業にも適用されますか?
いいえ。CFAAは米国連邦法であり、今回の判断は第9巡回区(カリフォルニア州を含む米西海岸の管轄区域)に限られる。日本企業が国内でAIエージェントを提供する場合は、不正アクセス禁止法や各サービスの利用規約など、別の法的枠組みで判断される点に注意してほしい。
AIエージェント開発者はこの判決だけを根拠にブラウザ自動化を進めてよいですか?
推奨しない。裁判所自身が「AIエージェントの責任をどう帰属させるかについて判例はほとんど存在しない」「法は今後間違いなく変化する」と明言している。ToS違反や商標権侵害のリスクは別途残るため、恒久的な法的保証とはみなさず、具体的な実装については弁護士など専門家に相談してほしい。
まとめ:今日から始める3つのアクション
- 今日:自社のブラウザ自動化・エージェントがUser-Agentを偽装していないか確認する
- 今週中:対象サイトの利用規約・robots.txtを遵守しているか、エージェントの行為ログが追跡可能かをチームで棚卸しする
- 今後:CFAAだけでなく契約違反・商標権侵害のリスクも含め、法務担当者や顧問弁護士と定期的にレビューする体制を作る
あわせて読みたい:
- AIエージェントがECを変えるAgentic Commerce完全入門2026 — 今回のCometのようなAIショッピングエージェントの技術的な仕組みと導入論点を整理
- Playwright MCP完全ガイド2026|AIブラウザ自動化の仕組みと実装 — 本記事のコード例で使ったブラウザ自動化の実装を体系的に解説
参考・出典
- Amazon.com, Inc. v. Perplexity AI, Inc. — Ninth Circuit判決文(PDF) — 米連邦控訴裁判所第9巡回区(参照日: 2026-08-06)
- Appeals Court Agrees with EFF that Building a Web Browser Doesn’t Violate the CFAA — Electronic Frontier Foundation(参照日: 2026-08-06)
- Ninth Circuit lifts block on AI-powered shopping assistant — Courthouse News Service(参照日: 2026-08-06)
- Amazon wins court order to block Perplexity’s AI shopping agent — CNBC(参照日: 2026-08-06)
- Amazon Vs. Perplexity: The CFAA Case That Decides Whether AI Agents Can Visit Your Website — Search Engine Journal(参照日: 2026-08-06)
- Judge blocks Perplexity’s AI bot from shopping on Amazon in early test of agentic commerce — GeekWire(参照日: 2026-08-06)
著者: 佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー10万人超。100社以上の企業向けAI研修・導入支援。著書『AIエージェント仕事術』。
この記事を読んで、自社のAIエージェント導入で「どこまでが許容範囲か」を整理したくなった方へ
UravationではAIエージェント導入の研修・コンサルを行っています。
