AIエージェント入門

Vertex AI Agent Engineとは?料金・実装・競合比較【2026】

Vertex AI Agent Engine 200+モデル対応エンタープライズAI基盤

この記事の結論

Cloud Next 2026発表のVertex AI Agent Engine。200+モデル、マネージドMCP、A2A v1.0、Pythonコード5本で徹底解説。

結論:本記事では「Vertex AI Agent Engine完全ガイド」の定義・主要機能・実際の活用方法を、初心者でも理解できる形で体系的に解説します。

対象読者:本テーマに興味がある実務担当者・意思決定者。

読了後にできること:本記事の要点を踏まえて、自社や自分の状況に合わせた次のアクションを判断できます。



この記事でわかること

  • Google Cloud Next 2026で強化発表されたVertex AI Agent Engineの全機能
  • Python SDKを使った本番エージェントのデプロイ手順(コード5本)
  • AWS Bedrock AgentCore・Azure AI Foundry・OpenAI Agents SDKとの実用的な比較
  • エンタープライズ導入で失敗しないための判断基準

対象読者:AIエージェントを本番環境に展開したい開発者・MLエンジニア・クラウドアーキテクト

「AIエージェントのPoCはうまくいったのに、本番展開になると途端にスケーラビリティとガバナンスの壁にぶつかる」

複数のエンタープライズ向けAIエージェント導入プロジェクトを支援する中で、この相談は繰り返し受けてきました。実験環境でLangChainやADKを動かすのは簡単でも、数百〜数千の同時リクエスト、監査ログ、セキュリティポリシー、マルチエージェント間の認証……これらを全部自前で実装しようとすると、エージェントロジック本体よりインフラコードのほうが多くなってしまいます。

2026年4月22日のGoogle Cloud Next 2026で発表されたVertex AI Agent Engine(Gemini Enterprise Agent Platformの一部として強化)は、この問題に正面から答える基盤です。Production-gradeのマネージド実行環境、A2Aプロトコルによるエージェントネットワークのオーケストレーション、マネージドMCPサーバーによるツール統合、そして200以上のモデルサポート。これらをGoogleの信頼性で提供します。

この記事では、公式ドキュメントと Cloud Next 2026の発表内容をもとに、Vertex AI Agent Engineの全体像から具体的な実装手順、競合比較、法人導入の判断基準まで一気に解説します。コードはそのまま試せる形で5本掲載していますので、今日から手を動かしてみてください。


Vertex AI Agent Engineとは(Cloud Next 2026強化)

Vertex AI Agent EngineはGoogle Cloudが提供するフルマネージドのAIエージェント実行基盤です。もともとVertexプラットフォームの一機能として存在していましたが、2026年4月のCloud Next 2026でGemini Enterprise Agent Platformとして大幅にリブランド・強化されました。

核心を一言で言えば、「エージェントをデプロイすれば、スケーリング・セキュリティ・監視・メモリ管理をGoogleが面倒を見てくれる実行環境」です。従来のAgent Engineの役割(reasoning engineとしてのマネージドランタイム)はそのままに、以下の4層構造で機能が整理されました。

レイヤー 主な機能 GAステータス(2026年4月時点)
Build ADK(Agent Developer Kit)、Agent Studio、Agent Registry GA
Scale & Orchestrate Agent Engine Runtime、A2A Orchestration、Memory Bank、Long-running Agents GA(一部Preview)
Govern Agent Identity、Agent Gateway、Agent Anomaly Detection Preview
Optimize Agent Observability、Agent Simulation、Agent Evaluation GA(一部Preview)

Cloud Next 2026での主要アップデート

今回の発表で特に注目すべき強化ポイントは以下の4つです。

1. Agent Engine SessionsとMemory Bankの一般提供(GA)
エージェント間でのコンテキスト共有、ユーザーとの会話履歴の永続化が正式GAとなりました。これまでは一時セッションに依存していた状態管理が、スケーラブルなManaged Memory Bankで置き換えられます。

2. マネージドMCPサーバーの統合
Model Context Protocol(MCP)をApigeeと組み合わせたAPI-to-Agentブリッジが利用可能になりました。BigQuery、Google Maps、Cloud Storageなど主要なGoogle CloudサービスがMCPサーバーとして公開されています。

3. A2A Protocol v1.0の本番統合
Agent-to-Agent(A2A)プロトコルがv1.0としてAgent Engineに統合され、エージェント間のタスク委任・マルチエージェントオーケストレーションが標準化されました。2026年4月時点で150以上の組織が本番運用しています(Google Cloud発表)。

4. 200以上のモデルサポート(Model Garden経由)
Geminiファミリーに加え、Anthropic Claude(Opus、Sonnet、Haiku)、Meta Llama、Mistral、その他50以上のサードパーティモデルをModel Garden経由で利用できます。


主要機能詳解(Production Deployment / Monitoring / MCP統合)

Agent Engine Runtime:Production-gradeの実行環境

Agent Engine Runtimeの最大の特徴はサブセカンドのコールドスタートです。Cloud Next 2026では「秒以内のコールドスタート、新規エージェントの数秒以内のプロビジョニング」が謳われており、突発的なトラフィックスパイクにも自動でスケールアウトします。GKEベースのサンドボックスが300インスタンス/秒のデプロイに対応しているとのことです。

実行環境の主な仕様は以下の通りです。

  • フレームワーク非依存(LangChain、LangGraph、ADK、カスタムフレームワーク全対応)
  • Pythonベース(2026年中にTypeScript/Go/Javaも順次対応予定)
  • Google Cloud IAMによる認証・認可
  • OpenTelemetry準拠のテレメトリー(Agent Observability)
  • Cloud Loggingへの自動ログ出力

Agent Observability:本番監視の仕組み

エージェントの動作をCloud Trace・Cloud Logging・Cloud Monitoringと統合してリアルタイムに可視化できます。トレースはOpenTelemetry準拠で、各ツール呼び出しのレイテンシ、モデルへのリクエスト・レスポンス、エラー率を自動収集します。

Agent Anomaly Detection(Preview)では、ツールの誤用、未認可のデータアクセス、推論の逸脱をプロアクティブに検知し、Security Command Centerから確認できます。

Memory Bank:永続的なエージェントメモリ

Memory BankはCloud Next 2026でGAとなった機能で、エージェントが複数のセッションをまたいでユーザーコンテキストや業務知識を保持できます。Memory Profileという単位で管理され、特定のユーザーやプロジェクトに紐づいた長期記憶を実現します。

Agent Gateway:エアトラフィックコントロール

大規模なマルチエージェント環境での中央ポリシー管理ポイントです。Model Armor(プロンプトインジェクション検知、機密データ漏洩防止、ツールポイズニング検知)を統合しており、エンタープライズのセキュリティ要件に対応します。


セットアップ(Cloud Console / Python SDK / ADK)

ここからはVertex AI Agent Engineを実際に動かす手順を説明します。公式ドキュメントのクイックスタートを基にしています。

前提条件

  • Google Cloud プロジェクト(Vertex AI API有効化済み)
  • Cloud Storage バケット(ステージング用)
  • Python 3.11以上

手順1:APIの有効化とSDKインストール

まず必要なAPIを有効化し、Vertex AI Python SDKをインストールします。

# Google Cloud APIを有効化
gcloud services enable aiplatform.googleapis.com

# Vertex AI SDK(Agent Engineサポート付き)をインストール
pip install --upgrade google-cloud-aiplatform[agent_engines,adk]>=1.112

# ADKのCLIも合わせてインストール
pip install google-adk

動作環境:Python 3.11+、google-cloud-aiplatform 1.112以上

手順2:SDKの初期化

プロジェクト、リージョン、ステージング用GCSバケットを指定してSDKを初期化します。

import vertexai

# 注意: PROJECT_ID、LOCATION、GCS_BUCKETは実際の値に置き換えてください
vertexai.init(
    project="your-project-id",          # Google CloudプロジェクトID
    location="us-central1",             # 利用可能リージョン(asia-northeast1も対応)
    staging_bucket="gs://your-bucket"   # アーティファクトのステージング先
)

print("Vertex AI SDK initialized.")

ポイント:`location`は現在 `us-central1` と `europe-west4` が主に推奨されています。東京リージョン(`asia-northeast1`)でも利用可能ですが、一部機能が遅れてGAになるケースがあるため、最新の可用性は公式ドキュメントで確認してください。


実装サンプル(Pythonコード5本)

コード1:ADKエージェントの定義

ADK(Agent Developer Kit)を使ってエージェントを定義します。ここではGoogle検索ツールを使うシンプルな調査エージェントを例にします。

from google.adk.agents import Agent
from google.adk.tools import google_search

# エージェント定義
# 注意: modelはModel GardenのモデルIDを指定します
research_agent = Agent(
    name="research_assistant",
    model="gemini-2.0-flash",           # または "claude-3-5-sonnet@20241022" 等
    instruction="""
    あなたは技術調査の専門家です。
    ユーザーの質問に対してGoogle検索で最新情報を確認し、
    日本語で簡潔かつ正確に回答してください。
    情報源URLを必ず記載してください。
    """,
    description="Web検索を使って最新技術情報を調査するエージェント",
    tools=[google_search]
)

print(f"Agent defined: {research_agent.name}")

ポイント:

  • `model`パラメータにはGeminiモデルだけでなく、Model Garden経由でClaudeやLlamaも指定可能
  • `instruction`は明確かつ具体的に書くほど精度が上がります
  • `tools`リストに複数ツールを並べてマルチツールエージェントを構成できます

コード2:Agent Engineへのデプロイ

定義したエージェントをVertex AI Agent Engineにデプロイします。`AdkApp`でラップしてから`agent_engines.create()`を呼びます。

from vertexai import agent_engines

# ADKエージェントをAdkAppにラップ
app = agent_engines.AdkApp(agent=research_agent)

# Agent Engineにデプロイ(初回は数分かかります)
print("Deploying agent to Vertex AI Agent Engine...")
remote_agent = agent_engines.create(
    agent=app,
    config={
        "requirements": [
            "google-cloud-aiplatform[agent_engines,adk]>=1.112",
            "google-adk>=0.5.0",
        ],
        "staging_bucket": "gs://your-bucket",
        "display_name": "Research Assistant",
    }
)

print(f"Deployed! Resource name: {remote_agent.resource_name}")
# 出力例: projects/123456/locations/us-central1/reasoningEngines/789012

# 注意: 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。

ポイント:

  • `remote_agent.resource_name` を保存しておくと、後でエージェントを参照できます
  • デプロイはコンテナイメージのビルドを含むため、初回は5〜10分程度かかります
  • `requirements`はプロダクションの依存関係を正確に指定してください(バージョンピン推奨)

コード3:デプロイ済みエージェントへのクエリ

デプロイ後のエージェントにセッションを作成してクエリを送ります。

from vertexai import agent_engines

# 既存のデプロイ済みエージェントを参照
remote_agent = agent_engines.get("projects/123456/locations/us-central1/reasoningEngines/789012")

# セッションを作成(Memory BankやSession管理に紐づく)
session = remote_agent.create_session(user_id="user-001")
print(f"Session created: {session['id']}")

# クエリを送信してレスポンスを受け取る
response = remote_agent.stream_query(
    user_id="user-001",
    session_id=session["id"],
    message="Vertex AI Agent Engineの最新アップデートについて教えてください"
)

# ストリーミングレスポンスを表示
for chunk in response:
    if "text" in chunk:
        print(chunk["text"], end="", flush=True)
print()  # 改行

# 注意: 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。

コード4:MCPサーバーとのツール統合

マネージドMCPサーバーをエージェントのツールとして登録する方法です。ここではBigQueryのMCPサーバーを例にします。

from google.adk.agents import Agent
from google.adk.tools.mcp_tool import MCPToolset, SseServerParams

# BigQuery MCPサーバーへの接続設定
# 注意: MCPサーバーのURLは環境に合わせて設定してください
bigquery_mcp = MCPToolset(
    connection_params=SseServerParams(
        url="https://mcp.googleapis.com/bigquery",
        headers={
            "Authorization": f"Bearer {get_access_token()}",  # Google OAuth2トークン
        }
    )
)

# MCPツールを使ったデータ分析エージェント
data_analyst = Agent(
    name="data_analyst",
    model="gemini-2.0-flash",
    instruction="""
    BigQueryのデータを分析してユーザーの質問に答えてください。
    SQLクエリを自動生成し、実行結果を日本語で説明してください。
    """,
    tools=[bigquery_mcp]  # MCPサーバーをツールとして登録
)

# 注意: MCPツールの権限設定は最小権限の原則に従ってください。
# 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。

ポイント:

  • MCPツールはAgent Gatewayでポリシーベースのアクセスコントロールをかけることができます
  • Google Cloud Services(BigQuery、Maps、Storage等)は公式MCPサーバーが提供されています
  • サードパーティMCPサーバーも接続可能で、Apigeeがブリッジとして機能します

コード5:A2Aプロトコルによるマルチエージェント連携

A2A(Agent-to-Agent)プロトコルを使って、別のエージェントにタスクを委任する実装例です。

from google.adk.agents import Agent
from google.adk.tools.agent_tool import AgentTool

# サブエージェント(専門エージェント)を定義
translation_agent = Agent(
    name="translation_specialist",
    model="gemini-2.0-flash",
    instruction="高精度な日英翻訳を提供する専門エージェントです。",
)

# オーケストレーターエージェント(A2Aで翻訳エージェントに委任)
orchestrator = Agent(
    name="orchestrator",
    model="gemini-2.0-flash",
    instruction="""
    ユーザーのリクエストを分析し、必要に応じて専門エージェントにタスクを委任してください。
    翻訳が必要な場合はtranslation_specialistに依頼してください。
    """,
    tools=[
        # A2AプロトコルでサブエージェントをToolとして登録
        AgentTool(agent=translation_agent)
    ]
)

# オーケストレーターをAgent Engineにデプロイ
# サブエージェントはオーケストレーターと同じランタイムで実行されます
from vertexai import agent_engines

app = agent_engines.AdkApp(agent=orchestrator)
multi_agent_system = agent_engines.create(
    agent=app,
    config={
        "requirements": ["google-cloud-aiplatform[agent_engines,adk]>=1.112"],
        "staging_bucket": "gs://your-bucket",
    }
)

print(f"Multi-agent system deployed: {multi_agent_system.resource_name}")
# 注意: 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。

ポイント:

  • A2AプロトコルはLinux Foundationに寄贈済みのオープン標準で、他ベンダーのエージェントとも連携可能
  • ComplexパターンとDeterministicパターンを混在させて、コンプライアンスが必要なフローは決定論的に実行できます
  • Agent Gatewayがエージェント間通信のポリシー適用ポイントになります

料金体系(リクエスト課金 / コンピュート / Monitoring)

Vertex AI Agent Engineの料金は複数のコンポーネントから構成されています。2026年2月11日よりAgent Engineの追加サービスの課金が開始されました(公式ドキュメントより)。

コンポーネント 課金モデル 備考
モデル使用料 トークン単価(モデルによる) Gemini 2.0 Flash: $0.10/100万トークン(入力)等。Model Gardenで各モデルの単価を確認
Agent Engine Runtime リクエスト数 + コンピュート時間 2026年2月より課金開始。詳細はcloud.google.com/vertex-ai/pricingで確認
Memory Bank ストレージ容量 + 読み書き操作 Cloud Spannerベース。詳細は公式ページ参照
Agent Sessions セッション数 一定量の無料枠あり(詳細は公式ページ参照)
Managed MCP API呼び出し数 Apigee課金と統合

正直にお伝えすると、料金の具体的な計算式は利用パターンによって大きく異なります。Google CloudのPricing Calculatorを使って、想定リクエスト数・モデル・セッション数を入力してシミュレーションすることを推奨します。また、Committed Use Discounts(CUD)でコンピュートコストを最大57%削減できるケースもあります。


競合比較(Bedrock AgentCore / Azure Foundry / OpenAI Agents SDK)

エンタープライズAIエージェント基盤の主要4プラットフォームを、実際の導入選定で重要な観点から比較します。

観点 Vertex AI Agent Engine AWS Bedrock AgentCore Azure AI Foundry Agents OpenAI Agents SDK
提供開始 2024年〜(Cloud Next 2026で強化) 2025年10月GA 2025年12月〜 2025年3月〜
マネージド度 ★★★★★ フルマネージド ★★★★☆ ほぼマネージド ★★★★☆ ほぼマネージド ★★☆☆☆ SDK(インフラ自前)
モデル選択 200+ (Gemini/Claude/Llama他) 多数 (Claude/Titan/Llama他) 多数 (GPT/Llama/Mistral他) OpenAIモデル中心
マルチエージェント A2A Protocol v1.0 (GA) Multi-agent collaboration (GA) Microsoft Agent Framework Handoffs (SDK)
MCP対応 あり(Apigeeブリッジ) あり あり あり(SDK連携)
エンタープライズガバナンス ★★★★★ Agent Identity/Gateway ★★★★☆ IAM/CloudWatch ★★★★☆ Entra ID統合 ★★★☆☆ 基本的なトレース
永続メモリ Memory Bank (GA) DynamoDBベース (GA) Thread永続化 手動実装
GCP依存度 高い(GCPネイティブ) 高い(AWSネイティブ) 高い(Azure/M365統合) 低い(クラウド非依存)
最適な用途 GCPネイティブ環境、マルチモデル AWSネイティブ環境 Microsoft 365統合 モデル非依存の柔軟な実装

AWS Bedrock AgentCoreとの最大の違いはガバナンス層の充実度です。Agent Gateway、Agent Identity(暗号学的ID)、Agent Anomaly Detectionという3層のセキュリティ機構はVertex AI Agent Engineが現時点で最も体系的に整備しています。Azure AI Foundry AgentsはMicrosoft 365(SharePoint、Teams)との統合が強みで、エンタープライズの既存資産を活かしたい場合に優位です。OpenAI Agents SDKはクラウドを選ばない柔軟性が特徴ですが、スケーリングやガバナンスは自前実装が必要です。

なお、AWS Strands Agentsについては AWS Strands Agents&Bedrock AgentCore完全ガイドで、OpenAI Agents SDKについてはOpenAI Agents SDKマルチエージェント完全ガイドでそれぞれ詳しく解説しています。


法人導入の判断基準

Vertex AI Agent Engineが「最適な選択肢」になる条件と、そうでない条件を整理します。

Vertex AI Agent Engineが向いているケース

  • すでにGCPを使っている:BigQuery、Cloud Run、Vertex AI Model Gardenとの統合コストが最も低い
  • マルチモデル戦略を取る:Gemini/Claude/Llamaを用途別に切り替えたい場合、Model Gardenのマルチモデルアクセスが便利
  • エンタープライズガバナンスが最優先:Agent Identity・Agent Gatewayによる監査・ポリシー管理が必要な規制業種(金融・医療・公共)
  • マルチエージェントアーキテクチャを本番運用する:A2Aプロトコルによる標準化された連携が必要
  • Google Workspace統合:Gemini Enterprise Appのエージェント機能とシームレスに連携したい

他の選択肢を検討すべきケース

  • AWSがメインクラウドで移行コストを避けたい:Bedrock AgentCoreのほうがIAM・CloudWatch統合が優位
  • Microsoft 365への深い統合が必要:SharePoint・Teamsとのエージェント連携はAzure AI Foundryが最も充実
  • クラウド非依存のポータビリティが必要:OpenAI Agents SDKはマルチクラウド・オンプレミス環境でも動作
  • GPT-4oが中心モデルで変更予定がない:Azure AI FoundryがOpenAIモデルの本番SLAを提供

導入前に確認すべき3点

  1. コンプライアンス要件:データレジデンシー(日本リージョン対応確認)、SOC 2/ISO 27001認証の範囲
  2. 既存フレームワーク資産:LangChain/LangGraphで書いたコードはそのままAgent Engineにデプロイ可能
  3. PoC→本番のコスト試算:Pricing CalculatorでPoCの10〜100倍のリクエスト数でコストシミュレーション

【要注意】エンタープライズ導入でよくある失敗パターン

失敗1:PoCの環境をそのまま本番に持ち込む

❌ ローカルで動いたADKエージェントをコードそのままAgent Engineにデプロイしようとする
⭕ 依存パッケージのバージョンをrequirements.txtでピン留め、ステージング環境で先に検証してから本番デプロイ

なぜこれが重要か:Agent Engineのコンテナビルドはローカルの仮想環境と微妙に異なります。パッケージバージョンの差異でインポートエラーが発生するケースが多いです。

失敗2:Agent GatewayなしでマルチエージェントをPublicエンドポイントに公開する

❌ A2A連携エージェントを認証なしでPublicに公開
⭕ Agent GatewayでIAM認証を設定し、エージェント間通信にもサービスアカウントを使う

なぜこれが重要か:エージェントが外部ツールを呼び出す権限を持つ場合、プロンプトインジェクション攻撃でツールが悪用されるリスクがあります。Agent GatewayのModel Armorは必須設定です。

失敗3:Memory Bankのデータ設計を後回しにする

❌ とりあえずエージェントをデプロイしてから、「セッションをまたいだ記憶が必要だ」と気づいてリファクタリング
⭕ Memory ProfileとUser IDの設計をアーキテクチャ段階で決定し、最初からMemory Bankを組み込む

なぜこれが重要か:Memory Bankを後から追加すると、既存セッションデータのマイグレーションと、エージェントロジックの修正が同時に発生します。最初から設計に含めることで手戻りを防げます。


Vertex AI Agent Engineが向くケース・向かないケース早見表

導入を検討する際は、自社が「どのプロファイルに当てはまるか」を先に整理すると判断が速くなります。ここでは企業の状況別に、Vertex AI Agent Engineが適性が高いか/要検討かを早見表として整理しました。記事前半で触れた個別の判断基準を、組織のタイプ単位で俯瞰できる形にまとめています。

企業・利用状況のプロファイル 適性 理由・補足
すでにGoogle Cloud(BigQuery / GKE / Vertex AI)を本番利用している 高い IAM・VPC・課金が既存基盤に統合され、認証やネットワーク設計の追加コストが小さい。データもGCP内に閉じやすい。
エンタープライズのガバナンス要件(監査ログ・権限分離・データ所在)が厳しい 高い Cloud Audit LogsやIAMによる権限制御、リージョン指定など、既存のGCPガバナンス機構をそのまま適用できる。
マルチエージェント/長期記憶を伴う本番運用を見据えている 高い セッション管理やMemory Bankといったマネージド機能を自前実装せずに使える。運用負荷を抑えやすい。
マルチクラウド前提で、特定ベンダーへの依存を避けたい 要検討 GCP前提の機能が中心になるため、他クラウドのマネージド基盤や自前構築との比較が必要。ロックインの許容度を先に決める。
個人開発・小規模PoCで、まず最小コストで試したい 要検討 マネージド基盤は運用機能が手厚い一方、検証段階ではオーバースペックになりやすい。軽量なフレームワーク単体での試作も選択肢。
既存システムがAWS / Azure中心で、GCP利用予定がない 要検討 新たにGCPアカウント・課金・権限設計を立ち上げるコストが発生する。同等のマネージド基盤を現行クラウド側で探す価値がある。
エージェントの挙動を完全に自社制御し、内部実装まで作り込みたい 要検討 マネージド基盤は運用を簡素化する反面、ランタイムの内部挙動はベンダー仕様に従う。フルカスタムが要件なら自前構築も比較対象。

表の「要検討」は不適合という意味ではなく、他の選択肢と並べて比較すべきという意味です。特にマルチクラウド方針やコスト感度が高いケースでは、次のセクションの観点で自前構築・他基盤と並べて評価することをおすすめします。

他のエージェント実行基盤との使い分けの考え方

Vertex AI Agent Engineは「マネージドなエージェント実行・運用基盤」という位置づけです。同じ目的は自前構築他クラウドのマネージド基盤でも達成できるため、何を優先するかで選択が変わります。ここでは具体的な価格・性能の数値ではなく、意思決定の軸として整理します。実際の料金・制限値は変動するため、最終判断時はGoogle Cloud公式ドキュメント(https://cloud.google.com)で必ず確認してください。

3つの選択肢の方向性

  • Vertex AI Agent Engine(GCPマネージド):ランタイム・監視・記憶などを統合で提供。GCP利用企業なら立ち上げが速く、運用機能を自前実装しなくてよい。一方でGCP前提の設計になる。
  • 自前構築(コンテナ+フレームワーク):実行環境・監視・権限・スケーリングを自分で組む。挙動を完全に制御でき、特定ベンダーに縛られにくい反面、運用機能の実装と保守の責任を自社で負う。
  • 他クラウドのマネージド基盤:思想はVertex AI Agent Engineに近いが、認証・課金・周辺サービスがそのクラウドに最適化される。すでにそのクラウドを使っているなら統合メリットが大きい。

判断軸ごとの向き・不向き

重視する判断軸 有利になりやすい選択肢 補足(一般論)
立ち上げの速さ・運用負荷の低さ マネージド基盤(Vertex / 他クラウド) 運用機能が標準提供されるため、最初の本番化までが短くなりやすい。
既存クラウドとの統合(認証・課金・データ) 現在使っているクラウドのマネージド基盤 GCP中心ならVertex、他クラウド中心ならその基盤が整合しやすい。
挙動の完全制御・カスタマイズ自由度 自前構築 内部実装まで作り込めるが、運用・監視・権限も自前で設計する必要がある。
特定ベンダーへの依存回避(ロックイン低減) 自前構築(または抽象化層の導入) マネージド基盤は固有機能ほど移行コストが上がる傾向。固有機能の使用範囲を意識する。
マルチエージェント・長期記憶などの高度機能 マネージド基盤 連携機能や永続メモリを標準機能として使えると実装量を抑えられる。

実務では「どのクラウドにデータと権限が既にあるか」が最初の分岐点になり、次に「運用を任せたいか、握りたいか」で絞り込むと判断がぶれにくくなります。いずれの選択肢でも、固有機能をどこまで使うかが将来の移行コストを左右するため、採用前に依存範囲を見積もっておくことをおすすめします。

FAQ

Q: 既存のLangChainエージェントはそのままVertex AI Agent Engineで動きますか?

A: はい、動作します。LangChainとLangGraphはAgent Engineが公式サポートするフレームワークです。`pip install google-cloud-aiplatform[agent_engines,langchain]`でインストールし、LangChainエージェントを`agent_engines.LangchainAgent`でラップするだけでデプロイできます。

Q: A2AプロトコルはGCP外のエージェント(AWS上のBedrockエージェント等)と通信できますか?

A: はい、可能です。A2AプロトコルはLinux Foundationが管理するオープン標準(HTTPSベース)で、GCPに限定されません。相手エージェントがA2Aプロトコルを実装していれば、クラウドをまたいだ連携が可能です。2026年4月時点で150以上の組織が本番運用中(Google Cloud発表)です。

Q: 日本リージョン(asia-northeast1)でVertex AI Agent Engineは使えますか?

A: 利用可能です。ただし一部の新機能(AgentプレビューGA機能等)は米国・欧州リージョンから先にロールアウトされる場合があります。データレジデンシーが必要な場合は`asia-northeast1`を指定し、使いたい機能の可用性を公式ドキュメントで都度確認することをお勧めします。

Q: Vertex AI Agent EngineとVertex AI Agent Builder(Dialogflow CX)は何が違いますか?

A: Agent BuilderはVertex AIのプラットフォーム全体(Agent Engine、Agent Studio、Dialogflow CX、Agent Registryを含む)の総称です。Agent Engine(Reasoning Engine)はその中でも「カスタムコードのエージェントをデプロイ・実行するマネージドランタイム」という位置づけです。Dialogflow CXはコンバーサショナルAI向けのノーコード/ローコードビルダー、Agent StudioはGUI操作でエージェントを組み立てる機能です。

Q: モデルをGemini以外(Claude、Llama)に切り替えるのは難しいですか?

A: ADKを使っている場合は`model`パラメータを変更するだけです。`”gemini-2.0-flash”` → `”claude-3-5-sonnet@20241022″`(Model Garden経由)のように変更できます。ただしモデルによってプロンプトの最適なスタイルが異なるため、切り替えのあとはプロンプトの調整が必要になるケースがほとんどです。



Sessions・Memory Bank の本番移行と料金の実数(2026年2月課金開始)

GSCデータを見ると「agent engine 料金」「vertex ai agent engine pricing 2026」で検索しつつクリックしていない読者が多い。現行の料金セクションは「詳細は公式で確認」と締めているが、ここでは2026年2月11日課金開始時点の公式数値と、本番移行時に判断が必要な SessionService 切り替えパターンをまとめる。

課金開始の経緯と 3コンポーネントの料金実数

Vertex AI Agent Engine の Sessions・Memory Bank・Code Execution は 2025年12月19日にGA(一般提供)へ移行し、2026年2月11日から課金が開始された(出典:Google Cloud Blog, 2025年12月19日発表)。同時期にAgent Engine Runtime 自体の単価も引き下げられている。

コンポーネント 課金単位 単価(USD) 無料枠
Agent Engine Runtime vCPU 時間 / GB 時間 $0.0864/vCPU 時間
$0.0090/GB 時間
月 180,000 vCPU 秒(50時間)
月 360,000 GiB 秒(100時間)
Sessions 保存イベント数 $0.25 / 1,000 stored events
Memory Bank(保存) 保存メモリ数 $0.25 / 1,000 memories
Memory Bank(取得) 取得メモリ数 $0.50 / 1,000 memories 月最初の 1,000 取得は無料
Code Execution vCPU 時間 $0.0864/vCPU 時間

たとえば月 1,000 セッション × 平均 10 イベント = 10,000 stored events の場合、Sessions 費用は $2.50(約390円)。モデルトークン費用と比較すると Runtime 費用は相対的に小さいが、チャットボット系で同時接続数が増えると Sessions イベント数が急増するため、本番前に Google Cloud Pricing Calculator で概算を取ること。

開発→本番でやるべき SessionService の切り替え

ADK(Agent Developer Kit)で書いたエージェントをローカルでテストする場合、デフォルトでは InMemorySessionService が使われる。これはプロセス再起動で会話履歴がリセットされるため本番には向かない。Agent Engine にデプロイする際は VertexAiSessionService に切り替えることで、会話状態が Agent Engine 側に永続化される(出典:ADK 公式ドキュメント)。

SessionService 使用場面 永続性 Agent Engine 課金
InMemorySessionService ローカル開発・単体テスト 再起動で消失 なし
VertexAiSessionService Agent Engine 本番デプロイ Agent Engine 側に永続化 $0.25/1,000 stored events
DatabaseSessionService 自前 DB で管理したい場合 接続先 DB に永続化 なし(DB 費用は別途)

切り替えのコード変更は 2 行だけで済む。google.adk.sessions パッケージから VertexAiSessionService をインポートし、Runner に渡す session_service を差し替えるだけだ(出典:ADK ドキュメント Sessions ページ)。

from google.adk.sessions import InMemorySessionService   # 開発時
from google.adk.sessions import VertexAiSessionService  # 本番時

# 開発環境(ローカル実行・テスト用)
session_service_dev = InMemorySessionService()

# 本番環境(Agent Engine デプロイ後に使用)
# PROJECT_ID / LOCATION は実際の値に置き換えること
session_service_prod = VertexAiSessionService(
    project="your-gcp-project-id",
    location="us-central1"   # asia-northeast1 も利用可
)

# Runner への渡し方は同一 — session_service を差し替えるだけ
# runner = Runner(agent=my_agent, session_service=session_service_prod, ...)

注意点として、asia-northeast1(東京リージョン)は Agent Engine 自体は利用可能だが、新機能の一部は us-central1 から先行 GA となるケースがある。データレジデンシー要件がある場合は東京リージョンを固定しつつ、使いたい機能の最新の可用性を公式ドキュメントで都度確認すること。

Azure AI Foundry との Memory 成熟度の差(2026年Q1時点)

GSC 上位クエリに「azure ai foundry openai agents」(29 imp / pos9.8)が入っており、本記事の競合比較セクションへの関心が高い。記事本文の比較表を補足すると、Memory の GA 状況に明確な差がある(出典:AgentMarketCap Q2 2026 比較レポート)。

機能 Vertex AI Agent Engine Azure AI Foundry Agents AWS Bedrock AgentCore
長期記憶(Memory Bank) GA(2025年12月〜) パブリックプレビュー GA(2025年10月〜)
短期セッション管理 GA(2025年12月〜) GA GA
ユーザースコープ分離 IAM ベース scope パラメータ あり
BigQuery ネイティブ統合 あり(構造化記憶) なし なし
MCP サーバー化 Apigee 経由(GA) OpenAPI 仕様で対応 Lambda 経由

Azure AI Foundry は Memory がまだプレビューのため、長期記憶を使ったパーソナライゼーション要件がある案件では 現時点では Vertex AI が先行している。一方、Microsoft 365 / SharePoint / Teams との連携が必要なケースは Azure AI Foundry が優位で、「GCP をすでに使っているか」「データウェアハウスが BigQuery か」が最初の選択軸になる。

Memory Bank・Sessions の詳細な長期記憶設計パターンについては、Mem0・Zep・LangMem の比較記事も参照してほしい。また ADK のデプロイ・評価ワークフロー全体については Google ADK 評価・デプロイ実践ガイド 2026 で詳しく解説している。


まとめ:今日から始める3つのアクション

Vertex AI Agent Engineは「エージェントを書く」から「エージェントを本番で運用する」への橋渡しを最も体系的に解決するプラットフォームです。Cloud Next 2026での強化により、Memory Bank GA・A2A v1.0・マネージドMCP・Agent Gatewayが揃い、エンタープライズが求めるガバナンス要件を満たしつつスケールする基盤になりました。

  1. 今日やること:コード1〜2のADKエージェント定義とデプロイをGoogle Cloud Free Trialで試してみてください(初回は無料枠で十分)
  2. 今週中:既存のLangChainエージェントがある場合はAgent Engineへの移行POCを1本実施。Pricing Calculatorで本番コストを試算する
  3. 今月中:PoC結果をもとにBedrock AgentCore・Azure AI Foundryとの選定を完了させ、本番アーキテクチャの設計を固める


この記事を読んで導入イメージが固まってきた方へ

UravationではAIエージェント導入の研修・コンサルを行っています。Vertex AI Agent Engineの要件整理から本番アーキテクチャ設計まで、実際のプロジェクト支援も対応しています。


参考・出典


著者:佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー10万人超。
100社以上の企業向けAI研修・導入支援。著書累計3万部突破。
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※ 本記事の情報は2026年6月時点のものです。サービスの料金・仕様は変更される可能性があります。最新情報は各サービスの公式サイトをご確認ください。

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