DeepSeekのAPIで、2026年4月のプレビュー公開時から使い続けられてきた旧モデル名「deepseek-chat」「deepseek-reasoner」が、UTC基準で2026年7月24日15:59(日本時間では7月25日0:59)をもって完全に廃止される。これ以降、この2つの名前を指定したAPIリクエストはエラーになり、後継の「deepseek-v4-pro」「deepseek-v4-flash」だけが正式な呼び出し名として残る。
4月のプレビュー公開から数えて3ヶ月。ピーク時間帯課金という新しい料金体系も6月末に発表されており、DeepSeek V4は「試験的な最新モデル」から「唯一の標準ラインナップ」へと立場を移しつつある。同じ週には、Moonshot AIが2.8兆パラメータの新モデル「Kimi K3」のオープンウェイト公開を7月27日に予告するなど、中国発のオープンウェイトモデルが立て続けに動いている。この記事では、DeepSeek V4の仕様・移行手順・料金体系を中心に、開発者が今日から確認すべきポイントを整理する。
DeepSeekが辿った3ヶ月 — 何が起きたのか
| 日付 | 出来事 | 開発者への影響 |
|---|---|---|
| 2026年4月24日 | DeepSeek-V4-Pro / V4-Flashをプレビュー公開。MITライセンスでHugging Faceに重みを公開 | 旧名deepseek-chat/deepseek-reasonerは自動的にV4系へルーティング開始 |
| 2026年6月30日 | ピーク時間帯課金の導入を発表(北京時間9-12時、14-18時は2倍) | 本番運用のコスト試算に時間帯係数を組み込む必要が発生 |
| 2026年7月24日 | 旧モデル名deepseek-chat / deepseek-reasonerがUTC 15:59に完全廃止 | 未移行のコードはAPIエラーで停止するため、当日中の移行が必須 |
| 2026年7月27日(予告) | Moonshot AIがKimi K3のフル重みを公開予定 | 自前運用を検討する開発者は選択肢が1つ増える |
特に注意したいのは3つ目の「モデル名廃止」だ。プレビュー期間中は互換性維持のためdeepseek-chat/deepseek-reasonerという名前でもV4系に自動転送されていたが、この仕組み自体がなくなる。つまり今日を境に、DeepSeekは「プレビューの延長線上にあるモデル」から「V4-Pro/V4-Flashという名前で確定した正式ラインナップ」に切り替わる。
V4-Pro / V4-Flashの仕様を確認する
まず現行ラインナップの技術仕様を整理しておく。DeepSeek-V4はPro/Flashの2系統で構成されるMoE(Mixture-of-Experts)モデルだ。
| 項目 | DeepSeek-V4-Pro | DeepSeek-V4-Flash |
|---|---|---|
| 総パラメータ数 | 約1.6兆(1.6T) | 約2,840億(284B) |
| アクティブパラメータ数/トークン | 約490億(49B) | 約130億(13B) |
| コンテキスト長 | 最大100万トークン | 最大100万トークン |
| 最大出力トークン | 384K | 384K |
| 同時実行数上限(公式API) | 500 | 2,500 |
| ライセンス | MIT | MIT |
| 公開形態 | Hugging Face(deepseek-ai組織)でオープンウェイト公開 | 同左 |
アーキテクチャ面での特徴は、Compressed Sparse Attention(CSA)とHeavily Compressed Attention(HCA)を層ごとに組み合わせたハイブリッドAttention構成だ。DeepSeek-AIが発表した技術レポートによると、100万トークンのコンテキスト設定において、V4-Proは前世代のV3.2と比べて1トークンあたりの推論FLOPsを27%、KVキャッシュを10%まで圧縮できるという。長文コンテキストを使うAIエージェント用途では、この効率化がレイテンシとコストの両面に効いてくる。
ベンチマークで見る実力
DeepSeek-AIが公式モデルカードで公開しているベースモデルのスコアは以下の通り。いずれも自社発表の数値であり、第三者による独立検証ではない点は踏まえておきたい。
| ベンチマーク | スコア(公式発表) | 条件 |
|---|---|---|
| MMLU | 90.1% | 5-shot |
| HumanEval | 76.8% | Pass@1, 0-shot |
| GSM8K | 92.6% | 8-shot |
| LongBench-V2 | 51.5% | 1-shot |
推論(Thinking)モードを有効にした「Pro-Max」構成では、SimpleQA-Verifiedで57.9%、LiveCodeBenchで93.5%、競技プログラミングのCodeforcesレーティングで3206という数値が同モデルカードに掲載されている。コード生成・数学系のベンチマークで高いスコアが出ている一方、これらは公式発表値であり、独立系ベンチマーク(Vals AI等)による第三者評価は本記事執筆時点(2026年7月24日)ではまだ確認できていない。実運用の判断材料にする場合は、自社のタスクに近い条件で検証してから採用することをおすすめする。
今日から試す — API移行の実践ガイド
移行作業自体はシンプルだ。DeepSeekはOpenAI互換のChatCompletions APIとAnthropic互換APIの両方をサポートしており、既存コードはbase_urlを変えずにmodelパラメータの値だけを書き換えれば動く。
# 動作環境: Python 3.11+, openai>=1.30.0
# 注意: 本番環境で使用する前に、必ずテスト環境で動作確認してください。
from openai import OpenAI
client = OpenAI(
api_key="YOUR_DEEPSEEK_API_KEY",
base_url="https://api.deepseek.com/v1",
)
# 旧: model="deepseek-chat" は 2026-07-24 15:59 UTC 以降エラーになる
# 新: 用途に応じて v4-flash(高速・低コスト) か v4-pro(高精度) を明示指定
response = client.chat.completions.create(
model="deepseek-v4-flash",
messages=[{"role": "user", "content": "サンプルの問い合わせ文"}],
max_tokens=1024,
)
print(response.choices[0].message.content)
ポイント: 旧名deepseek-reasonerを使っていたコードは、思考(Thinking)モードが必要なタスク向けだったはずなので、単純にdeepseek-v4-flashへ置き換えるのではなく、精度要件に応じてdeepseek-v4-proの利用も検討したい。エージェント型のツール呼び出しやマルチステップ推論を伴うワークフローの設計は、AIエージェントツール比較完全ガイドで扱っているフレームワーク選定の考え方と合わせて確認すると判断しやすい。
# 移行漏れを検知する簡易チェック(CI等に組み込む用途を想定)
# 注意: 実際のリポジトリ構成に合わせてパスやパターンを調整してください。
import re
import sys
DEPRECATED_MODELS = ["deepseek-chat", "deepseek-reasoner"]
def scan_file(path: str) -> list[str]:
with open(path, encoding="utf-8") as f:
text = f.read()
hits = []
for name in DEPRECATED_MODELS:
if re.search(rf'["']{name}["']', text):
hits.append(f"{path}: '{name}' が残っています")
return hits
if __name__ == "__main__":
for path in sys.argv[1:]:
for hit in scan_file(path):
print(hit)
環境変数にAPIキーをハードコードしている場合は、この機会に.envやシークレットマネージャー経由の管理に切り替えることも推奨する。
料金体系とピーク時間帯課金の注意点
DeepSeek公式のAPI料金ページによると、100万トークンあたりの基本(オフピーク)価格は以下の通り。
| モデル | 入力(キャッシュヒット) | 入力(キャッシュミス) | 出力 |
|---|---|---|---|
| V4-Flash | $0.0028 | $0.14 | $0.28 |
| V4-Pro | $0.003625 | $0.435 | $0.87 |
この上に、2026年6月30日発表のピーク時間帯課金が乗る。北京時間の9:00〜12:00と14:00〜18:00は、上記の基本価格が2倍になる。South China Morning Postの報道によれば、DeepSeekはこの変更の理由を「リソースの適切な配分とサービス安定性の向上」と説明しており、2026年5月にDeepSeekが仕掛けたAPI値下げ競争(ByteDanceやTencentも追随値下げした経緯がある)からの方針転換とみられている。日本の営業時間帯(9-18時JST)は北京時間ではおおむね8-17時に相当するため、平日昼間の大量バッチ処理はピーク料金にかかりやすい。夜間・早朝バッチへのシフトや、キャッシュヒット率を上げるプロンプト設計(システムプロンプトの固定化など)でコストを抑える余地がある。
中国系オープンウェイト新世代の中でどう位置づけるか
DeepSeek V4が正式ラインナップに移行するのと同じ週、Moonshot AIも大型モデルを動かしている。同社は7月16日に2.8兆パラメータの「Kimi K3」を発表し、ネイティブな視覚理解と100万トークンのコンテキストウィンドウを備える、現時点で最大級のオープンソースモデルだとしている。VentureBeatの報道によれば、全重み(フル精度でおよそ1.4TB相当)の公開は7月27日を予定している。DeepSeek V3.2の低コストAPIが2025年にAI業界へ与えた衝撃と同様に、Kimi K3の全面オープン化は自前運用・ローカル実行を検討する開発者にとって選択肢を増やす動きだ。Kimi K3自体の詳しい仕様やAPI利用方法はKimi K3 APIエージェント開発ガイド、他の中国系オープンウェイトモデルとの勢力比較はKimi K3・Qwen3.8-Max連発の解説記事でまとめているので、そちらも参照してほしい。
商用利用前に確認すべきこと
DeepSeek-V4-Pro/Flashのモデル重みはMITライセンスでHugging Face上に公開されており、ライセンス上の制約は比較的緩やかだ。ただし、公式APIを商用利用する場合は、送信するデータの内容(個人情報・機密情報を含めない)や、データ保持・学習利用に関する利用規約を自社のコンプライアンス基準と照らして確認しておく必要がある。
あわせて触れておきたいのが、中国系AI研究機関を巡る業界の議論だ。2026年2月、Anthropicは公表したレポートの中で、DeepSeek・Moonshot AI・MiniMaxの3社が、約24,000件の不正アカウントを使ってClaudeとの間で1,600万件超のやり取りを生成し、利用規約に違反する形でモデルの能力を抽出する「蒸留」を行っていたと主張した(Bloomberg、CNBC報道)。この主張についてはAI業界内でも賛否が分かれており、Anthropic自身を含む主要ラボが著作権・学習データを巡る訴訟の被告になっている中での主張である点を指摘する声もある。事実関係が係争的な話題であるため、本記事ではこれ以上踏み込まず、商用利用の可否や自社への影響は法務・コンプライアンス部門を交えて個別に判断することを推奨する。
よくある質問
Q1. DeepSeek V4の「安定版」とは具体的に何が変わったのですか?
2026年4月からプレビュー扱いだったV4-Pro/V4-Flashが、2026年7月24日の旧モデル名(deepseek-chat/deepseek-reasoner)完全廃止をもって、唯一の正式ラインナップになりました。モデル自体の重みが差し替わったわけではなく、呼び出し名の一本化とピーク時間帯課金の導入が主な変更点です。
Q2. 旧モデル名で送っていたAPIリクエストはどうなりますか?
UTC基準で2026年7月24日15:59(日本時間7月25日0:59)以降、deepseek-chatとdeepseek-reasonerを指定したリクエストはエラーになります。deepseek-v4-flashまたはdeepseek-v4-proへの書き換えが必要です。
Q3. V4-ProとV4-Flashはどちらを使うべきですか?
速度とコストを優先するならV4-Flash(アクティブパラメータ13B、出力$0.28/Mトークン)、精度や複雑な推論を優先するならV4-Pro(アクティブパラメータ49B、出力$0.87/Mトークン)が基本の使い分けです。旧deepseek-reasonerからの移行では、思考モードが必要なタスクかどうかで判断するとよいでしょう。
Q4. ピーク時間帯課金はどのプランにも適用されますか?
公式API経由の利用であれば、北京時間9:00〜12:00・14:00〜18:00の間は基本価格の2倍が適用されます。バッチ処理主体の用途は、この時間帯を避けるかキャッシュヒット率を高める設計でコストを抑えられます。
Q5. Kimi K3とDeepSeek V4はどう違いますか?
DeepSeek V4は1.6T(Pro)/284B(Flash)パラメータのMoEモデルで、すでにAPI・重み双方が利用可能です。Kimi K3は2.8Tパラメータとより大規模で、フル重みの公開は2026年7月27日を予定しています。用途で選ぶなら、すでに実運用実績があるDeepSeek V4、最新の大規模オープンモデルを試したいならKimi K3が候補になります。両者の詳しい比較はKimi K3・Qwen3.8-Max連発の解説記事を参照してください。
Q6. 商用利用する上で特に注意すべき点は?
モデル重み自体はMITライセンスで制約は緩やかですが、公式API利用時のデータ取り扱いに関する利用規約は必ず確認してください。また、中国系AI研究機関を巡っては学習データの出所について業界内で議論が続いているため、自社のコンプライアンス基準に照らした判断を法務部門を交えて行うことを推奨します。
まとめ — 開発者が今日やるべき3つのこと
- 今日やること: コードベース内のdeepseek-chat/deepseek-reasonerをgrepし、deepseek-v4-flash/deepseek-v4-proへ書き換える。
- 今週中: バッチ処理のスケジュールを見直し、北京時間9-12時・14-18時のピーク料金を避けられないか確認する。
- 今月中: V4-Pro/V4-Flashの性能を自社タスクで検証し、Kimi K3など今後公開されるオープンウェイトモデルとの比較検討も並行して進める。
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- 2026年、AIエージェントがローカルへ──プライバシーと自律性の新時代 — オープンウェイトモデルを自前運用する際の全体像
参考・出典
- DeepSeek V4 Preview Release — DeepSeek API公式ドキュメント(参照日: 2026-07-24)
- Models & Pricing — DeepSeek API公式ドキュメント(参照日: 2026-07-24)
- deepseek-ai/DeepSeek-V4-Pro モデルカード — Hugging Face(参照日: 2026-07-24)
- DeepSeek-V4: Towards Highly Efficient Million-Token Context Intelligence — DeepSeek-AI公式テクニカルレポート、arXiv(参照日: 2026-07-24)
- DeepSeek to launch V4 in mid-July with new peak-time API pricing — TechNode(参照日: 2026-07-24)
- After triggering price war, DeepSeek reverses course with surcharge on peak-hour API use — South China Morning Post(参照日: 2026-07-24)
- DeepSeek’s legacy model names retire today, and the easy fix has a catch — TECHi(参照日: 2026-07-24)
- China’s Moonshot AI releases Kimi K3, the largest open-source model ever — VentureBeat(参照日: 2026-07-24)
- Anthropic Accuses DeepSeek, MiniMax, Moonshot of Illicit AI Model Distillation — Bloomberg(参照日: 2026-07-24)
著者: 佐藤傑(さとう・すぐる)
株式会社Uravation代表取締役。X(@SuguruKun_ai)フォロワー10万人超。100社以上の企業向けAI研修・導入支援。著書累計3.1万部突破。
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